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2005年07月06日
オンド・マルトノの表現力
いつもライブや音源の紹介ばかりなので、先日都響の『トゥランガリラ交響曲』公演もあったことですし、ここでオンド・マルトノの本質的な部分を説明したいと思います。
オンド・マルトノの奏法は、大雑把に言えば、右手(リボン及び鍵盤)で音程を取り、左手(トゥッシュ)で音量(強弱)を調節する-つまり、弦楽器の奏法と左右の手が逆の動作-ことは、ご存じの方も多いと思います。「鍵盤楽器」と認識されている場合も多いオンド・マルトノですが、このような奏法により、単に鍵盤を押さえれば音が出るピアノ等の鍵盤楽器では不可能な表現が可能になります。
ピアノとの比較
以下は音の強さと時間の経過をグラフで表したものです。ひとつの曲線がひとつの音(全音符等長い音で想像するとわかりやすいかと思います)と想定しています。
A-(1)はピアノの音の鳴り方です。アタック(鍵盤を叩く)があった直後に最強(最大音量)となり、その後は鍵盤を押さえたままでも緩やかに音は弱くなっていきます。この時奏者が音をコントロールできるのは最初に鍵盤を叩くときの強さと、鍵盤から指を離すタイミングだけです。打鍵(音が鳴った)後に奏者がコントロールできるのは、せいぜいソスティヌートペダルで音を伸ばしたりする程度です。
このように一つの音だけを取ってみれば、ピアノという楽器はプロが弾こうが全くの素人が弾こうがそれほど鳴る音に差異がない楽器と言えます。
対してB-(2)、(3)はオンド・マルトノでの音の出し方の一例です。オンド・マルトノは前述のように発音部と音程部が分かれているので、B-(2)のように小さな音から鳴り始め、音が消える(次の音符に移る)直前に最強としたり、B-(3)のように小さな音で延々何小節も長い音を同じ強さで鳴らすこともできます。
グラフには表していませんが、オンド・マルトノには、音の強弱に加え、音楽にとって重要な要素のひとつであるビブラートをどのように鳴らすか(大きな幅、小さな幅、♯気味、♭気味、音の鳴り始めだけかける等)という表現の余地もあります。
また、ひとつのドでも、♯気味のド、♭気味のドというような表現の余地もあります。
これらのことはどういうことかと言うと、打鍵の瞬間はもちろん、音が鳴り続けている間、音が消える瞬間まで表現の余地がある、ということなのです。逆に言えば、このようにひとつひとつの音符の音に表現が入っていなければ(音を作る作業をしなければ)、オンド・マルトノらしい表現(音楽として聴けるもの)にはならない、ということです。
ピアノは誰が弾いても出る音に差異はないと前述しましたが、それに対しオンド・マルトノは、たったひとつの音符だけでも奏者それぞれの鳴り方違うのです。例えば、実際に自分が弾いた後にハラダ タカシさんが全音符ひとつ弾くのを聴いてみると、次元の違うその豊かな響きにびっくりし、ここまで鳴り方が違うものかと納得し、自分の表現力のなさに落胆するのです(泣)。
ただ、こうした「ひとつひとつの音をどのように鳴らすか」というのは、ヴァイオリンでひとつの音を素人が弾くのとプロが弾くのと全く違う鳴り方をするように、弦楽器では当然のことなのです。オンド・マルトノが鍵盤楽器として認識されていることから違和感を感じるのだと思います。このことからも、オンド・マルトノが鍵盤楽器というよりも弦楽器に近い言われることがおわかりいただけるかと思います。
ちょっとオンド・マルトノのことを知っている人にはオンド・マルトノを弾くことは簡単と思われがちなのですが、確かに、鍵盤の位置がわかる人でしたら、音符を追うことだけならすぐにできるようになります。しかし、それだけでは、単に音符を追っているだけで音楽にはなりません。楽器としては非常にとっつきやすい楽器ではありますが、音楽として演奏するとなると非常に難しい(それだけ表現豊かな)楽器だということがわかります。
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以上のことはハラダ タカシさんの受け売りです(正確に理解しここで伝えられているかは不安ですが)。それとこれらのことをワタクシが実践できているか、というのはまた別の話です(^^;。
それまで漠然と楽器を弾いていたワタクシですが、ハラダさんにオンド・マルトノを教えて頂いて、作曲家がそこに音符を置いた意味や、一音一音をどのように聴いて表現するか、ということを考えるようになり、音楽にとってとても大切なものを得たと思っています。
そんなオンド・マルトノを生で聴いてみたければ、明日Hakuju Hallに足を運んでみてくださいな。
投稿者 Utayume : 2005年07月06日 20:37| 01 Ondes Martenot
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トラックバック時刻: 2005年07月07日 03:57
コメント
「ひとつの音」を弾く場合でも、それが前後関係的に「適切な音」かどうかは、弾く人によって全然違いますから、結局はオンドと一緒と言えます。これが「ひとつの和音」なら、前後関係をヌキにしても決定的に違ってくるし。
投稿者 閘門大師 : 2005年07月07日 03:58
閘門大師さま、コメント&トラックバックありがとうございます。
ご指摘の点は理解しているつもりですが、ワタクシの文章力のなさからフォローしきれませんでした。精進いたしますー。
投稿者 うた夢 : 2005年07月07日 11:27